労働基準監督署の調査対応について

労働基準監督署の調査とは

労働基準監督署(以下、監督署)による調査は、労働基準法やその他労働関連法令が適切に遵守されているかを確認するために行われます。これには予告なしの突然の訪問調査も含まれ、事業主はこれに対応しなければなりません。

労働基準監督署による調査は、労働基準法および関連する労働法令の遵守が出来ているか確認するために行われます。以下の四つの主なタイプがあります。

  1. 定期監督
    定期的に行われ、法令遵守の全般的な状況を把握するための調査です。
  2. 申告監督
    労働者からの具体的な申告に基づく調査で、申告された問題点に関して詳細な調査が行われます。
  3. 災害時監督
    労働災害が発生した際に行われる調査で、災害の原因や背景について調べることが主な目的です。
  4. 再監督
    是正勧告が出された後、その勧告が適切に実施されているかを確認するために行われます。

労働基準監督署の調査の目的

労働基準監督署の調査は、以下の主要な目的を持って行われます。

  1. 法令遵守の確認
    労働基準法をはじめとする労働関連法令の遵守を確認し、違反が発見された場合、その是正を促進します。
  2. 労働環境の改善
    日本国憲法第25条に基づき、すべての国民が健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を保障するために、労働環境を改善し、労働者の安全と健康を保護します。
  3. 労働者の権利保護
    法律で定められた適切な労働条件を保障するため、労働者の権利を守り、不当な扱いや搾取から保護します。

これらの目的を通じて、労働基準監督署は法の遵守を監視し、労働者の権利と安全を保障するために調査を行います。

調査内容

ここからは主に定期監督の調査についてご説明していきます。調査は、労働基準監督署の職員(調査官)が企業の遵法状況を確認するために行われます。主な調査項目には、労働時間の記録、賃金の支払い状況、労働安全措置の適用、雇用契約書の確認などが含まれます。特に、過重労働や不当な労働慣行が疑われる場合には、詳細な調査が行われるます。

調査時は例えば以下のような点について確認が行われます。

  1. 労働時間管理方法(出勤簿に手書き、タイムカードの打刻、ICカード等での電子記録、使用者の現認による、などどのように労働時間管理を行っているのか)
  2. 変形労働時間制を採用している場合は、変形労働時間制の形式的要件と実態が一致しているか。例えば1か月単位の変形労働時間制を採用している場合に、法定労働時間の上限以内(週平均40時間以内)に所定労働時間が設定されているか。
  3. 36協定(時間外労働、休日労働に関する協定届)が適切に届出され、その内容が遵守されているか。
  4. 労働者名簿、賃金台帳、出勤簿、年次有給休暇管理簿等の帳票類が適切に備え付けられ保管されているか。
  5. 法定健康診断の受診と記録がなされているか。
  6. 従業員規模によって必要になってくる産業医や衛生管理者の選任、届出を行っているか。

上記は調査の際に確認される内容のごく一部ですが、労働基準法等の労働関係諸法令を遵守できているか帳簿を確認して、適宜使用者に質問しながら実態を確認することになります。

調査への対応

労働基準監督署の調査に対する対応は、事前の準備と調査当日の対応に分けられます。

【事前準備】

労働基準監督署より、特定の帳票を準備するように指示があります。概ね以下の通りとなります。

  1. 事業概要(パンフレット等)
  2. 組織図
  3. 労働者名簿
  4. 労働契約書等の労働条件を示した書類
  5. 事業場の人数とその内訳(性別、雇用形態、外国人、障害者)
  6. 就業規則・賃金規程等の規程類
  7. 時間外・休日労働に関する協定書等の協定書
  8. 労働時間管理記録
  9. 賃金台帳
  10. 年次有給休暇管理簿と取得状況
  11. 健康診断結果個人票
  12. 安全衛生委員会の議事録
  13. ストレスチェックの状況

なお調査日時については、基本的に労働基準監督署と打ち合わせの上、調整を行うことができますが、定期監督以外の場合、調査日時は変更できない可能性もあります。個別の事案により異なりますので注意してください。

【調査当日の対応】

調査当日は、調査官の資格を確認後、誠実に調査に応じ必要に応じて情報提供を行います。調査目的はあくまで適法な事業運営が出来ているか確認すること、また違法な実態があればそれを是正するように指導することであり、過去3年分の未払い賃金を全従業員に対して全額支払いなさい、という指導をされることは原則ありません。

多くの場合、例えば未払い賃金について指導がなされるときは、過去2~3ヶ月分の賃金支払状況を再度確認して、未払いが認められれば支払いなさい、という指導が一般的です。

また調査官の質問に即時回答できない場合は、慌てて思い込みで回答をするのではなく、後日調査して回答するという姿勢でも問題ありません。また必要に応じて調査官に法的な助言を求めることも考慮するべきです。

調査後の対応と改善

調査結果を受けての対応策や、問題点が指摘された場合の改善プロセスを説明します。重点を置くのは、適切な是正措置と再発防止策の実施です。

  1. 月45時間以上の時間外残業が認められた場合は、過重労働による健康障害防止について、対策を講じるように指導があります。例えば、シフトの見直しや人員配置の見直し、業務改善等によって時間外残業時間を削減することが対策として求められますので、この点を検討・実施して労働基準監督署に後日報告する必要があります。
  2. 1. 以外で、例えば1か月単位の変形労働時間制の運用が守れていない等、違法性は認められないが改善が必要だと思われる項目に対しては「指導票」が交付されます。指導票に対しても具体的に指導内容が記載されていますので、この内容に対して取り組みを行い、その取り組み内容と結果を後日労働基準監督署に報告します。
  3. 調査の結果、違法性がある状況、例えば休憩時間が法定通り確保されてない、賃金の支払い状況に未払いがある、と認められる場合は「是正勧告書」が交付されます。こちらも②と同様に改善を行い、その取り組み内容と結果を後日労働基準監督署に報告します。

上記の改善については、労働基準監督署に助言を求めてもいいのですが、専門家である社会保険労務士に相談することをお勧めします。可能であれば調査前に専門家の助言を仰ぎ、予防策を講じることが望ましいです。

まとめ

労働基準監督署の調査は、労働法令の遵守を確認し、労働環境を改善するためのひとつのきっかけとして捉えることもできます。また労働基準監督署の調査を経て、何ら指摘事項がなければ、それは企業が適法な状況で企業運営が出来ているいう証左のひとつにもなりますので、専門家と相談しながら対応することをお勧めいたします。