今回は標題の「諭旨退職」と「退職勧奨」の違いについて説明をしていきたいと思います。
そもそも本記事を書こうと考えたのは実際の労務問題のご相談いただく中で、当初、「諭旨退職としたい」という内容で承ったのですが、どうも聞くにつれ「それは退職勧奨をしたい」ということかな、と認識したことから、確かに違いは分かりづらいなと思い、これを機にご説明しようと思ったからです。
「諭旨退職」とは
「諭旨退職」とは懲戒処分の一つとして用いられます。定義自体は個々の会社の規定によって異なりますが、退職願もしくは辞表の提出を勧告し、退職を求めます。所定期間内に勧告に応じない場合は懲戒解雇に処する、という取扱いをする企業が多いです。
諭旨退職は依願退職のような形式をとるが、実際上は厳然たる懲戒処分の一種であるので、その法的効果は懲戒解雇同様に争いうると解されます。
(菅野労働法より)
「退職勧奨」とは
「退職勧奨」とは、「退職」することを「勧奨=勧める」行為です。つまり「●●さん、会社はこのような理由で●●さんに退職していただきたいと考えています、いかがでしょうか?ご検討ください」ということですね。
「諭旨退職」と「退職勧奨」の特徴
諭旨退職は、
① 懲戒処分であり、単に退職することを依頼する行為ではない
② 多くの就業規則では、諭旨退職に応じない場合は懲戒解雇に移行することが記載されており、懲戒処分の中でも極めて重い処分
③ 状況によっては、退職金等の減額の不利益が生じる可能性がある
退職勧奨は、
① 労働者の自主的な退職を勧める行為なので、これを受けるかは労働者の自由意思によって決まる
② 原則として適切な退職勧奨であればその行為自体に違法性はなく、あくまで会社からの提案、という側面が強い
③ 退職勧奨を受けて自主的に退職した場合、雇用保険の失業等給付の退職理由は「事業主都合のための退職」として扱われる(最終的には公共職業安定所判断)
以上のような特徴があります。
つまり多くの会社が「あの労働者に辞めてほしい。本人に辞めてくれと伝えよう」という場合、それは「退職勧奨」をしたい、ということになります。
この点を誤って(悪意がなくても)「●●さんを諭旨退職にします」と労働者ご本人に伝えてしまうと、それは懲戒処分としての「諭旨退職」という行為により退職をすることを勧奨しているため、それが懲戒手続に則っているか、その処分の妥当性は問題ないか、等のハードルをクリアする必要があり、多くの場合それはかなり困難です。
言葉は似ていますし、実際に退職を勧めている行為自体は同じに見えますが、全く異なる行為ですので、混同しないように注意してください。
退職勧奨に関する裁判例
上記で、
原則として適切な退職勧奨であればその行為自体に違法性はなく、
と書きましたが、ではどんな場合に違法性があるかを確認してみましょう。
下関商業高校事件(S55.07.10最一小判)
【事案の概要】
1 Y市立高等学校の男性教諭X1、X2は、退職勧奨の基準年齢(57歳)になったとして、初回の勧奨以来一貫して応じないと表明しているにもかかわらず、Y市の職員から執拗に退職を勧奨されたことから、X1らはY市と教育長・同次長に、違法な退職勧奨により被った精神的な損害として各50万円を賠償するよう請求したもの。
2 広島地裁・同高裁ともに請求を認容(ただし、教育長・同次長への請求は棄却)した。Y市は上告したが、最高裁は上告を棄却し、Y市に損害の賠償を命じた。
https://www.check-roudou.mhlw.go.jp/hanrei/taisyoku/kansyou.html
【判示の骨子】
1 退職勧奨は、任命権者が雇用関係のある者に、自発的に退職するよう説得する行為であって、勧奨される者は自由にその意思を決定しうる。
2 勧奨される者の任意の意思形成を妨げ、あるいは名誉感情を害する勧奨行為は、違法な権利侵害として不法行為を構成する場合がある。
3 本件退職勧奨は、多数回かつ長期にわたる執拗なものであり、許容される限界を越えている。また、従来と異なり年度を超えて勧奨が行われ、退職するまで続けると述べて、X1らに際限なく勧奨が続くのではないかとの心理的圧迫を加えたものであって許されない。組合の要求にも、退職しない限り応じないとの態度を示し、X1らに二者択一を迫るがごとき心理的圧迫を加えたものであり、いずれも不当といえる。
4 本件退職勧奨は、X1らの任命権者であるY市教育委員会の決定に基づき、Y市の職員が自己の職務として勧奨するに当り、その限度を越えX1らに義務なきことを強要したものであり、少なくとも過失によるものとして、Y市はX1らに、その被った損害を賠償すべき義務がある。
https://www.check-roudou.mhlw.go.jp/hanrei/taisyoku/kansyou.html
(ゴシックは記事作成者による)
まとめ
つまり退職勧奨される者が自由に意思決定することを妨げ、あるいは名誉感情を害するような発言等は、違法行為となるリスクがあるということですね。
ですので、
- 人格否定をするような発言
- 大声で怒鳴るような退職面談
- 大人数や長時間での勧奨行為
- 毎日毎日長期間に及ぶ勧奨行為
などは、絶対にやめておきましょう!となります。
あくまで一個人として尊重して、率直に退職勧奨面談をすることをお勧めいたします。(綺麗ごとではなくて、その方が言われる方も受け入れやすく、違法性のリスクもないからです。)
今回もご覧いただきありがとうございました。
※本記事は主に会社の役員や労務担当者の方に向けて書いております。読みやすさを重視しておりますので、細かい点において記載が不足する等があると思いますが、読みやすさを重視するため、法律実務家の方はご寛容にお読みいただけますと幸いです。
