有期雇用契約の更新時に所定労働時間の変更をすることがありますが、所定労働時間を減らす場面では丁寧にその影響を事前に説明した方がトラブルはなくなります。
例えば、週所定20時間以上の方を週20時間未満に変更する場合であれば、雇用保険の資格喪失はもとより、例えば所定労働時間が介護職員を対象とした一定の居住支援金の要件になっている場合はそれも説明しておかないと、そこまで知らされていなかった、とトラブルになることも想定されます。
賃金に関する事項は説明必須ですが、補助金等で手当を支給している場合、失念しがちなので気をつけましょう。
また特定適用事業所(社会保険の用語で、同一の法人番号を有する適用事業所で、厚生年金保険の被保険者の総数が「常時50人を超える」事業所のこと。一定の要件あり。)ですと、週20時間未満に変更すると社会保険の資格も喪失することになります。
一方、所定労働時間を増加させた場合の影響はどうなるかというと上記の逆になります。
週20時間未満から週20時間以上になると昼間学生を除き雇用保険資格の取得をすることになります。また社会保険は会社の規模によりますが、上述の特定適用事業所であれば社会保険の資格取得も行うことになります。
一般論として労働時間が増えること=賃金額が増える、となりますので、労働者にとっては労働時間が増える方は有利な変更となります。
ただし「扶養の範囲内で働きたい!」と思っている労働者にとってはむしろ労働時間を増やしたいと思っておらず、扶養の範囲内で働けないなら、別の職場を探す、というきっかけにもなってしまいます。
そもそもなぜ扶養の範囲内で働けなくなることを嫌がるかというと、
- (自身の)社会保険料が発生することで手取りが減ることから、扶養で働いていた時の手取りを得るためには、少し労働時間を増やしただけでは足りず、もっと働く必要があるから
- 労働者の配偶者が、税法上の優遇措置(配偶者控除等)が受けられなくなるから
- 労働者の配偶者が勤務先等から受けている家族手当等の収入上の優遇措置を受けられなくなるから
などが考えられます。
国は上記の3つのうち最初の2つは制度改正や助成金で対応しようとしていますが、まだこの問題は解決途上です。
加えて最後の家族手当等の問題は、労働者の配偶者の勤務先等によって条件が変わるため画一的な対応ができず、また世帯収入に直結するため大きな課題となっています。
よって、「収入が上がるから、契約更新時に所定労働時間を増やすように契約を打診しよう」と安易に会社が考えていても、そうそう思惑通りにはいかないということです。
最後に最も重要なことですが、
契約更新時に変更する場合、原則として労働者と使用者の合意が必要です。
所定労働時間を変更するときにも合意の上で契約を締結することになります。有期雇用契約は、原則としてその契約期間のみの労働条件を提示して契約することになりますが、更新時に従前の条件と乖離のある労働条件の提示には注意が必要です。
確かに、契約期間ごとに労働条件を合意の上で締結するので、その契約は形式上は独立しています。
ただし、実態として長期間にわたり反復更新されていたり、毎回ほぼ同じ条件で当然のように更新されていたり、そもそも更新時の契約書作成や労働条件明示が曖昧なまま働き続けてもらっていたような場合には、「今回の契約は今回だけのものだから、次の契約では会社が自由に条件を変えられる」と単純にはいえません。
有期労働契約は、形式上は契約期間ごとに区切られています。しかし、労働者側から見ると、何度も更新されている、更新面談も形式的である、勤務内容や勤務時間がずっと同じである、会社からも継続勤務を前提とした説明を受けている、という事情があれば、「次も同じように更新されるだろう」と期待するのは自然です。
このような場合には、労働契約法19条のいわゆる雇止め法理との関係にも注意が必要です。反復更新の実態や、労働者に更新を期待する合理的な理由がある場合には、使用者が更新を拒絶することが客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当でないと判断されると、従前と同一の労働条件で契約が更新されたものと扱われる可能性があります。
ここで注意したいのは、会社が「更新はするけれど、次回からは所定労働時間を大幅に減らします」「この条件でなければ更新できません」と提示する場面です。これは形式上は新しい契約条件の提示であっても、労働者にとっては、従前の条件での更新を拒否されたのと近い意味を持つことがあります。
特に、所定労働時間の減少により賃金が下がる、雇用保険や社会保険の資格を喪失する、補助金・手当・支援金等の対象から外れる、生活設計に影響が出る、という場合には、単なる勤務シフトの調整では済まない問題になります。会社としては、なぜその変更が必要なのか、どの程度の変更なのか、他に選択肢はないのか、いつから適用するのかを、事前に丁寧に説明しておくべきです。
また、これまで契約更新手続きをきちんと行ってこなかった場合も注意が必要です。契約期間満了後もそのまま勤務を継続し、会社もそれを受け入れていた場合には、少なくとも従前と同じ条件で黙示に更新されていたと評価される余地があります。そのような運用を続けてきた会社が、ある時点で突然「次から条件を変えます」と言っても、労働者からすれば納得しにくいでしょう。
したがって、契約更新時に所定労働時間を変更する場合には、単に新しい労働条件通知書や雇用契約書を交付すればよい、という発想では足りません。変更内容が労働者に与える影響を整理し、説明し、労働者が検討する時間を確保し、そのうえで合意を得るという手順が重要です。
実務上は、少なくとも次の点を確認しておくとよいでしょう。
- これまでの更新回数、通算契約期間
- 更新手続きが毎回適切に行われていたか
- 労働者に更新期待を抱かせる事情がないか
- 所定労働時間の変更理由
- 賃金、雇用保険、社会保険、有休、各種手当・補助金への影響
- 労働者本人の希望や家庭事情
- 変更に同意しない場合の取扱い
- 説明内容と合意内容を記録に残しているか
結局のところ、有期雇用契約の更新時における労働条件変更は、「次の契約だから自由に変えられる」というものではなく、「これまでの更新実態を踏まえて、合理的に説明できる変更か」「労働者が納得して合意できるだけの説明をしているか」が重要になります。
特に所定労働時間は、賃金だけでなく、雇用保険、社会保険、扶養、補助金、手当、生活設計にまで影響するため、変更幅が大きい場合ほど慎重な対応が必要です。契約更新時のトラブルを防ぐためには、更新前の早い段階から説明を行い、必要に応じて労働者側の事情もヒアリングするなどして、合意のハードルになりそうな事象がないかを確認することをお勧めします。
最終的に合意ができない場合は雇い止めとなりますが、反復更新の回数・期間や更新の期待値が高いほど、事実上の解雇として認識されるリスクが高ますので注意が必要です。
この点についてはまた別途記事にしたいと思います。
